ユリ根/百合根
ユリ科ユリ属
Lily bulb学名:Lilium lancifolium
ユリ根は、古くから日本の食卓に親しまれてきた冬の味覚で、上品な甘みとホクホクした食感が魅力の食材である。百合(ユリ)の球根部分を食用とするもので、特にオニユリやヤマユリなどの品種が食用として広く栽培されている。花を観賞するイメージの強いユリだが、その根が食材として重宝されるようになった背景には、古来より薬効があるとされた歴史がある。ユリ根の名前はもちろん植物としての「百合」に由来し、鱗片が幾重にも重なる姿が、清らかさや純粋さを象徴する花とともに、日本文化の中で親しまれてきた。
ユリ根の収量は、おおよそ年間1,000トン前後。国内の生産量の約9割以上を占めるのが北海道である。特に、洞爺湖町や真狩村は全国的にも名産地として知られ、寒暖差の大きい気候がユリ根のゆっくりとした成長を促し、甘みの強い良品質のものが育つ。
ユリ根は収穫までに5〜6年という長い年月を要するため、生産者の手間と管理技術がその品質を大きく左右する。近年では高齢化や生産者減少により収穫量はやや減少傾向にあるものの、その希少性も相まって「冬の高級食材」としての地位を確立している。
収穫期は11月〜翌1月頃で、ちょうど冬の真ん中が最も美味しい旬といえる。土付きのまま低温で保存すれば比較的日持ちするが、時間の経過とともに乾燥して甘みやホクホク感が損なわれやすいため、新鮮なうちに調理するのが望ましい。冬場の料理にゆり根が多く使われるのは、この旬の時期と重なるためで、正月料理にも欠かせない素材として親しまれている。
現在、ユリ根の国内消費は低迷している。価格は1玉あたり約300円〜700円 程度で売られることが多い。高級食材であるがゆえに、定番の家庭料理にはなりづらく、なかなか裾野は広がっていない。近年は海外にも活路を見いだしており、香港やシンガポール、北米などに輸出し、需要を調査。国内で消費できない分を輸出することで生産を維持したい考えだ。
ユリ根は見た目の印象以上に栄養が豊かで、特にデンプン質が多く、エネルギー源として優れている。また、食物繊維を多く含み、整腸作用が期待できる。さらに、カリウムが豊富で、体内の余分な塩分を排出する働きがあるため、高血圧予防にも役立つとされる。その他にも、ビタミンCや葉酸が含まれ、免疫力向上や貧血予防にも効果が期待される。加えて、古くから漢方では、ユリ根は「滋養強壮」、「精神安定」に働き、不眠や咳、乾燥に良いとされていた。
ユリ根は、ホクッとした食感と優しい甘みを持ち、料理に取り入れやすい万能食材である。代表的な料理としてまず挙げられるのが「茶碗蒸し」で、ほろりとほどけるユリ根の食感が卵の滑らかさと相性抜群である。また、正月の祝い肴として用いられる「キントン」にもユリ根が使われ、白く美しい見た目から縁起物として大切にされてきた。
裏ごししたユリ根に白身魚のすり身や山芋を合わせて蒸し、葛あんをかける京料理「百合根饅頭」は、関西の料亭の懐石料理として提供される贅沢な1品。「かぶら蒸し」、海老や魚の「炊き合わせ」などの添え野菜にもユリ根がよく登場する。天ぷら専門店や割烹で味わえる「ユリ根のかき揚げ」も冬の人気メニューだ。その他、「素揚げ」にして塩を振ると素材の甘みが際立ち、冬の酒肴としても楽しめる。「ポタージュ」や「グラタン」など洋風料理に応用しても風味豊かで、ホクホク感が料理全体を優しくまとめてくれる。
このように、ユリ根は長い年月をかけて育ち、豊かな甘みと栄養を蓄えながら、冬の食卓を彩る貴重な食材である。生産地の努力とともに受け継がれてきた日本の味として、旬のこの時期に、ぜひその魅力を存分に味わってほしい。
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