
チップ/ヒメマス
サケ目サケ亜目サケ科サケ属
Kokanee学名/Oncorhynchus nerka nerka
毎年6月になると支笏湖でチップ漁が解禁になる。チップは海へ下らずに一生を湖で過ごす湖沼残留型のサケ科の淡水魚、「ヒメマス」のことをいう。鮮やかな銀白色に輝く平たくて細い整ったフォルムをしており、その美しい姿と繊細な味わいからとても人気がある。漁が行われる6〜8月が旬で、1年のうちたったの3ヵ月しか漁が行われないため、とても貴重な食材だ。
チップはアイヌ語で「薄い魚」を意味するカバチェッポと呼ばれ、名前はそのチェッポに由来する。キレイな水質の 5〜15℃程度の低水温を好み、3〜4年で全長20〜30cm前後の成魚となる。白銀の魚体をしており、頭部や背は青みがかる。稀に背中の部分や尾ビレに黒い斑紋があるものもいる。身はサーモンピンクで、薄い鱗は非常に細かくて取れやすい。皮はしっかりして少し硬め。幼魚のころはパーマークとよばれる淡い青色の斑紋が散らばっている。産卵期の 9月下旬〜11月にかけてオスは紅サケ同様に背中が盛り上がり紅色の婚姻色となる。メスは湖の浅瀬の湧水がある場所で産卵。産卵後には死んでしまう。
支笏湖のチップは、1894年(明治27年)に原産である阿寒湖から移入されて定着した。国内屈指の水質のよさを誇る支笏湖のキレイな環境で育ち、主に動物性プランクトンをエサとして成長する。チップと同じく動物性プランクトンをエサとするワカサギが生息していないことなどから、十分にエサを確保することができるため、水生昆虫を口にすることはない。そのため、淡水魚特有の臭みがなく、また、年間を通じて低い水温が豊かな脂と引き締まった身を育むため、他の川魚の味わいとは別格といわれる。その昔食糧難の時代には地域の貴重なタンパク源として、また厳冬期の保存食として活用されてきた。
チップは数年ごとに豊漁と不漁を繰り返す魚で、コロナ禍の2021年、22年は記録的な不漁となったが、2023年には漁獲量が上向きになり、2024年は初めて釣獲数が20万匹の大台を超え、過去最大の漁獲量となった。2025年も6〜8月までの短い漁期ながら、前年に続く豊漁となるかが注目される。
支笏湖のチップは、2018年(平成30 年)に名称を「支笏湖チップ」に統一し、2024年6月には「地域団体商標」に登録するなど、より広く消費者に認知してもらい、この資源を後世に伝えていくため、ブランド化に取り組んでいる。漁は主に船釣りが主流。ヒメトロという独特な仕掛けを使い、曳き釣りする。回遊魚のため広い湖にどの位のスピードでどのようなコースを描きながら進むかということと、魚群のいる深さを読まなければならないという要素が加わる奥深い漁法。チップは口元が弱いので外れやすいが船を進めたまま軽くあわせリールを巻き始めると、透明度の高さも相まってキラキラと魚体を光らせながら上がってくる。傷がつかないように1匹ずつ丁寧に釣り上げられる。ヒメマスの生態には謎が多く、絶滅危惧種に指定される。養殖の歴史は比較的浅く、まだまだ飼育法が確立していないのも希少価値が高い理由のひとつとなっている。現在、増殖事業を行っている支笏湖漁業協同組合では北海道庁から特別採捕許可を受け、捕獲・採卵を行いつつ、北海道大学との連携による共同研究が進められている。また、春には川の湧水で育てた稚魚を湖に放流し、地元ではこれが風物詩として親しまれている。チップは、低カロリーで栄養バランスに優れた食材。良質なタンパク質やビタミン群を含み、特にビタミンB12が豊富で神経系の健康維持に役立つ。さらに、ビタミンDは骨の健康やカルシウムの吸収を促進し、DHA、EPAは脳機能の向上や心血管系の健康をサポートする。疲労回復に効果的なカリウム、リン、セレンなどのミネラル成分の含有量も高い。
支笏湖チップは水質日本トップクラスのキレイな湖で育っていることでアニサキスなどの寄生虫が付着していないのが特徴だ。そのため生食が可能となる。ただし、鮮度落ちが早いため、獲れたてを刺身で味わうのが最適。握り寿司や切り身を豪快に盛り付けた海鮮丼は名物料理として人気。ルイベは冷凍してから、解凍しないまま刺身にして食べる郷土料理で、口の中で次第にトロリととろけていく味わいが絶品だ。また、焼くと旨みが一層強くなるため、塩焼きやフライが美味。ソテーやムニエル、蒸し料理などは風味があり、身も硬くならない。カルパッチョやマリネ、パスタ、燻製など洋食にも幅広く用いられている。支笏湖特産の重要な観光資源として位置付けられ、シーズンになると湖畔の商店街やホテルでは、姿焼きやチップづくしのコース料理が提供される。最近では産卵後の親魚の有効活用として魚醤が製造されている。
-
1月
-
2月
-
3月
-
4月
-
5月
-
6月
-
7月
-
8月
-
9月
-
11月
-
12月