ニシン/鰊
ニシン目ニシン科
Pacific herring学名:Clupea pallasi
厳冬の北海道に春を運んでくる「春告魚」。3月から4月の曇った日によく獲れるため、どんよりした空模様は「ニシン曇り」と名付けられた。この時期、産卵で岸が真っ白に染まる「群来」はかつてよくみられる光景だった。「ヤーレン〜、ソーラン〜、ソーラン〜、ニシン来たかとカモメに訊けば」、ニシンと唄は不思議によくあう。ソーラン節や江差追分などで庶民に長年親しまれてきた魚だ。
魚体は細長く、腹縁が薄い。体長は30cmほど。下顎は上顎よりやや長い。背側は青黒色、腹側は銀白色。名前の由来は身を2つに裂いて食べることから「二身(ニシン)」となったとする説がある。漢字の「鰊」のつくり「柬」は「若い」という意味で、小魚を指すことからニシンにこの字があてられた。
ニシンは冷水域を好む回遊魚で、北太平洋、北極海、日本海などに広く分布する。北海道では、石狩湾を中心とした日本海側、オホーツク海、厚岸湾、北海道西岸、樺太周辺が主漁場となっている。
広範囲の海洋を回遊する大規模な群れと、湾内を回遊する小規模な群れに分かれ、日本近海で見られる大規模回遊群のものは「北海道サハリン系」と呼ばれ、北海道西岸を産卵場とし、オホーツク海から千島列島を経て北海道太平洋沿岸を回遊、およそ3年で成熟し、北海道西岸に戻り産卵する。小規模沿岸回遊群のものは石狩湾ニシンや茅部ニシンなどがある。
回遊魚であるが同じ海域に戻り産卵する性質を持つ。水深15m以深の沿岸で、海藻などに直径1.5mm程度の塊状の卵を産みつける。産卵数は数万粒で大型の個体になるほど多い。これが子持ち昆布となる。この卵にオスが放精して対外受精が行われる。その際に海水が白濁する。孵化後、動物性プランクトンやオキアミ類を捕食しながら半年で10cm、1年で15cm、5年で30cm程度に成長する。
ニシン漁の最盛期は1920年ごろ。漁獲高が年間70万トンに達し、北海道の日本海沿岸で大いに賑わい、ニシン漁で財を成した網元による「鰊御殿」が建ち並ぶほどだった。やん衆とは群来のくる春に鰊場に雇われる季節労働者のこと。
その後、漁獲量が急減したのは周知のとおり。その理由としては2つ。「建て網」という2隻の船で魚群を取り囲む効率的な漁法が開発され、乱獲が一気に進んだこと。もう1つは水温の変化により、産卵行動が阻害されたことだといわれる。
近年は資源保護がすすみ漁獲量も徐々に回復しており、今年も豊漁で、ここ数年は小樽、厚田、浜益、留萌などでは大群で押し寄せる群来が確認されている。しかし漁獲量は3,000〜6,000トン台の水準で、ロシア、欧州などの地域からの輸入が目立っている。
キラキラと輝く春ニシン。身はしっとりとして脂のりが良く、メスは数の子、オスは白子でお腹はパンパンだ。肌や目の健康に欠かせないビタミンAや、骨の発育に必要なカルシウムの吸収を促進してくれるビタミンDも豊富に含まれている。オイレン酸が多いので脂が多い割にしつこくないのも特長だ。
ニシン料理は数限りなくあるが、まずはススキノで炉端焼きを堪能したいところ。炭火ならではの薫ばしい香りは食欲をそそり、ふっくら柔らかでホクホクとした身が楽しめる。ハラワタは苦味のある大人の味わい。刺身で味わうのも素晴らしく、特に北海道近郊の日本海で獲れた一級品は中トロにも引けを取らない脂のり。薬味はワサビよりもショウガがあう。寿司で味わえるのも主にこの時期。生のニシンを塩とぬかで漬け込んだ昔ながらの珍味「きりこみ」も酒の肴として重宝されている。
春ニシンの腹子を取り出して塩漬けなどに加工する「新数の子」は美しい黄金色に輝き、“春の宝もの”と讃えられる。
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